第39回       毎年、春に想うこと

 朝と夜、片道25分、往復で50分の距離を、毎日自転車をこいで通勤している。体育会気質なもので、どうしてもちんたらと走ることができず、自転車にまたがったその瞬間からマックスのスピードでこぐ。そんなわけで真冬でも汗びっしょり。最初の頃は体がキツかったが、今ではもう慣れて、さて今日はどういうルートで帰ろうかと気持ちにも体にも余裕が出てきた。

 自転車通勤でいいのは、季節の移り変わりを肌で感じられること。今の季節、顔に受ける風はまだまだ冷たいが、その中にはっきりと春の気配が感じられるのがうれしい。朝の気持ちよさは格別だ。目に飛び込んでくる景色が日増しに鮮やかになっていく。いつもすれ違う、保育士に引率された園児の集団も楽しげだ。

 前にも書いたことがあるけど、春は何かを始めるのに最適な季節だと思う。夏や秋でもない。イベントフルでわくわくすることが多い冬も、「スタート」のイメージじゃない。風薫り、芽吹くこの季節が、やはりまっさらな感じがして、意味もなく体の底からパワーが漲ってくる。「よし、やるぞ!」という気持ちになる。

 テニスを始めたのも春だった。テニスコート脇の大きな桜の木の下で、真新しいラケットで夢中になって素振りをした記憶がある。テニスコートが見えただけで心が躍ったし、同じく初心者の友人と何本かラリーが続いただけでうれしかった。当時は、ビヨン・ボルグとジミー・コナーズが僕の先生だった。テレビ中継でボルグのフォームを目に焼き付け、せっせと近所の小学校へ壁打ちに通った。体育館の窓ガラスを割って、そのたびに逃げ帰ったっけ。春になると、決まってそんなことを思い出す。

 このコラムでも、春になると毎回同じようなことを書いているような気もするが、でも、毎年この季節に初心を思い出すのは、とても大事なことだと思うのだ。リフレッシュした気持ちでテニスに向き合える。あの大会で勝つとか、このショットをマスターするとか、何か目標を立ててもいいですよね。

 自分は、とりあえず今週末から始まるリーグ戦で、テニスができる喜びを感じながら、自分の今のベストのプレーを楽しんでできたらなと思います。

                         (2015/03/26)


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