第36回       春に想う

 気づけば桜の花も散ってしまい、いつの間に育っていたのか、若い緑の葉が光に照らされ、きらきらと輝いている。一年のうちでこの季節が一番好きなのは、自然のいたるところに瑞々しい生命力を感じるから。何かが始まりそうな強いパワーを感じるから。

 この春、従兄弟の子供が中学校に進学し、テニス部に入った。彼とテニスとの出会いは、何年か前に偶然訪ねてきてくれた錦織圭選手と僕の店でバッタリ会ったこと。それ以来、テニスに夢中なのだと従兄弟から聞いていたけど、そうか、ついに入ってくれたか。ユニクロのウェアとウイルソンのラケットでキメて、日々部活に励んでいるのだそうだ。

 親戚のオジサンとしては、とてもうれしい。これでまたひとり、テニスという魅力的な、深い迷路のような森に足を踏み入れたことになる。もう単なる親戚のオジサンと少年というだけの関係ではない。彼と僕はテニス仲間だ。

 彼をはじめ、この春にはたくさんの少年少女が日本中のいたるところでテニスデビューを果たしたことだろう。きらきらと目を輝かせ、ボールを追って走り回っていることだろう。そのことを想像するとわくわくする。みんな、テニスというすばらしいスポーツを、ぜひ一生懸命楽しんでほしいと思う。

 自分がテニスを始めたのも春だった。

 大きな桜の木の下で素振りをした。夕刻、ボールが見えなくなるまで壁打ちに夢中になった。一日の終わりにはタオルでラケットをていねいに拭き(当時はウッドラケットだった)、枕元に置いて寝た。目をつむり、スーパーショットをキメる自分を想像しながら寝た。

 春は、こうやって初心を思い出し、もう一度フレッシュな気持ちでテニスと向き合える絶好の季節。何か目標を立ててみようか。新しいチャレンジをしてみようか。ラケットやウェアを新調してみようか。新しい自分になって、コートに立ったとき、いつもと違った風景が見えるかもしれない。

 皆さんのテニスとの出会いはどうでしたか?

                         (2014/04/20)


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